Q&A集
Q&Aについて
ミネラルウォーター市場は平成元年(1989年)から平成29年(2017年)までの29年間で30倍あまりに拡大しており、今やミネラルウォーターは生活必需品となりつつあります。また、昨今では、保存水の需要も増えてきています。一般家庭への浸透に伴い、ミネラルウォーターに関する様々なご質問が各方面から寄せられております。
そこで、これらのご質問の中から頻度が高くまた基本的な事項を選び、一般的なミネラルウォーターについて解説いたしました。
Q&A
Q-7)硬度とはどのような概念なのですか。 |
A)本件につきましては、比較的問合せも多いため少し詳しく記載します。
水の硬度の概念はもともと石鹸の洗浄効果を阻害する能力を示したもので、アルカリ土類金属であるカルシウムとマグネシウムの塩類を多く含む水を硬水、少ない水を軟水といい、その度合はカルシウム塩、マグネシウム塩の含量で表されます1)。
一般にいう石鹸とは高級脂肪酸(炭素数の多い脂肪酸)のナトリウム塩であり、硬度の高い水ではナトリウムがカルシウムやマグネシウムと置換する割合が多くなり不溶性の高級脂肪酸カルシウム塩やマグネシウム塩を形成し水から分離するようになります。このため石鹸の泡立ちが悪くなり洗浄効果が阻害されます。
わが国の水道法に基づく水質基準では、硬度を「カルシウム、マグネシウム等(硬度)」と表していますが、これは水の硬度を構成する成分にはそのほか鉄、銅、マンガン等があり、これらの成分については不明であるため項目名に「・・・等」が付けられています2)。
硬度の表し方については国によって異なり主なものとして、カルシウムとマグネシウムのイオン濃度(mg/L)を炭酸カルシウム(CaCO3)濃度に換算して表す「アメリカ硬度」「フランス硬度(換算単位が異なります。省略)」「イギリス硬度(換算単位が異なります。省略)」、酸化カルシウム(CaO)換算で表す「ドイツ硬度(省略)」などが知られています3)。わが国では1950年にドイツ硬度からアメリカ硬度に変更されました。WHOの飲料水水質ガイドラインもアメリカ硬度と同様です。
計算式で示しますと次のようになります。
CaCO3(mg/L)=Ca(mg/L)x2.5+Mg(mg/L)x4.1
硬度の分類につきまして、McGowanは水の硬度に関し過去75年間以上にわたり多くの記載があるが、硬度の分類に関する統一的な定義はないと述べています4)。そこで、硬度による軟水・硬水の分類につきまして、出典が明確な2例について下表に示します。いずれも炭酸カルシウム濃度で表されています。
表に示しましたように、軟水・硬水といっても提唱者等によって分類の基準が異なるため、提唱者や出典を示して表現するのが正確でしょう。
なお、わが国では社会通念として、軟水・硬水の境を一般的に硬度100mg/Lで分けている例が多く見られます8)−12)が、出典の明示はあまり見かけません。
表 硬度の分類例 | ||||
Taylorの分類5) | WHOのバックグランドドキュメント7) | |||
(日本薬学会編「衛生試験法・注解」6)) | ||||
硬度の範囲 | 原典の記述5) | 硬度の範囲 | 原典の記述7) | |
日本語の記述6) | ( )内は当協会追記 | |||
<50 | Soft | Below 60 | Soft | |
軟水 | (軟水) | |||
50〜100 | Moderately soft | 60-120 | Moderately hard | |
中等度の軟水 | (中程度の硬水) | |||
100〜150 | Slightly soft | 120-180 | Hard | |
軽度の硬水 | (硬水) | |||
150〜250 | Moderately hard | More than 180 | Very hard | |
中等度の硬水 | (非常な硬水) | |||
250〜350 | Hard | |||
硬水 | ||||
>350 | Excessively hard | |||
非常に高度の硬水 |
引用文献
1)「上水試験方法・解説編, 2001年版」, pp.210(日本水道協会,2001)
2)同上, pp.211(日本水道協会, 2001)
3)「水道用語辞典(第二版)」, pp.15(日本水道協会, 2003)
4)W. McGowan, “Water Processing; residential, commercial, light-industrial”,
third edition, pp.98(Water Quality Association, 2000)
5)E. W. Taylor, “The Examination of Waters and Water Supplies”,
seventh edition, pp.22, 137-139(Little Brown and Company, Boston, 1958)
6)日本薬学会編「衛生試験法・注解(2010年版)」, pp.731(金原出版, 2010)
7)WHO/HSE/WSH/10.01/10/Rev/1 Hardness in Drinking-water.
Background document for development of WHO Guidelines for Drinking-water Quality. pp.1(WHO, 2011)
8)藤田・園著「改訂新版 水と生活(水の生活科学)」, pp.45(槙書店, 2001)
9)佐藤著「おもしろサイエンス おいしい水の科学」, pp.20(日刊工業新聞社, 2007)
10)橋本著「おいしい水 きれいな水」, pp.17(日本実業出版社, 2007)
11)「水の総合辞典」, pp.152(丸善, 2009)
12)高村編「地下水と水循環の科学」, pp.193(古今書院, 2011)
<改訂:2013年5月8日>